今もなお語り継がれる、1991年に発表されたYohji Yamamoto POUR HOMMEとアーティスト・杖村さえ子とのコラボレーション。
今回、WILDSIDEにて30年以上の時を経て再び蘇る――。
なぜ、彼女の描く女性は人々を魅了するのか。
貴重な当時の話を元に、ヨウジヤマモト プールオムとアーティスト・杖村さえ子の出会いから今日に至るまでを紐解いていく。
レザージャケットに宿る伝説が誕生した1991年、パリ
湾岸戦争時のパリ。混沌の時代に行われたヨウジヤマモト プールオムのパリ・コレクションには、今なお語り継がれる象徴的なグラフィックがある。
それが、アーティスト・杖村さえ子による女性像を描いたグラフィックだ。
当時、ヨウジヤマモトは「男とは何か」という問いを掲げ、レザージャケットやオーバーサイズのテイラードジャケット、愛する女性をテーマにアイテムを製作していたが、そのタイミングで戦争が勃発。
奇しくも「戦地へ赴く兵士が、恋人の絵を背負って戦う――。」
イメージソースとなっていた、アメリカ空軍の機体に描かれた“ノーズアート”とリンクすることになる。
「戦争を意識したわけじゃない。けれど、戦場へ向かう人たちが愛する相手を背負う姿は、命を懸ける美学でもあったんです」と当時を知るヨウジヤマモトのアトリエは振り返る。その「背中の女」を描くアーティストとして白羽の矢が立ったのが、杖村さえ子だった。
「日本人の顔で描きたい」。そう考えていたデザイナー山本耀司が彼女の作品を見つけ、即座に指名したという。
彼女は当時渋谷にあったヨウジヤマモトのアトリエに招かれ、革ジャンの背中に宿る女たちを描いた。
それがヨウジヤマモト プールオムとアーティスト・杖村さえ子との出会いだ。
1991年当時のショウを写した貴重な資料
変わりゆく素材、変わらない美意識
1991年当時、革ジャンに絵をのせる技術はまだ発展途上だった。
革に直接描いた作品もあれば、白の下地をプリントしてから彩色する原始的な手法もあったという。
この「手の跡」こそが杖村さえ子が生み出す作品の魅力だった。
2002年には再び杖村さえ子を起用したグラフィックが登場する。
「昭和の女優」をテーマとし、合皮やオーガンジーのような軽やかな素材にプリントする技法へと進化する。透け感を活かし、素肌に重なるグラフィックは、まるで一枚の絵画のようだった。
「裸の上に羽織ると、そのまま肌が透けるんですよ。あの大胆なアイデアはデザイナー山本耀司ならでは」とヨウジヤマモトのアトリエは話す。
そして2025年の今。
WILDSIDE から登場する今回のコラボレーションでは、最新技術による刺繍での表現が採用された。
かつて絵筆で描かれた女性の表情が、糸の重なりで立体的に蘇る。
「プリントでは再現できない深み」を求めての選択だった。
時を超えて愛される理由
30年以上の時を経ても、杖村さえ子の描いた女性像は古びない。
むしろ今見ても、そこに描かれているのは現代の女性そのものだ。
「彼女の描く女はね、どこか性格が悪そうで、したたかで。でも、それがリアルでいいところなんですよ」
そう語るヨウジヤマモトのアトリエの言葉に、思わず頷いてしまう。妖艶で、気高く、どこか挑発的。
「可愛い」でも「美しい」でもない、「生きている女」を描いたからこそ、時代を超えて通用する。
ヨウジヤマモト プールオムと杖村さえ子。
両者に共通するのは、徹底したプロフェッショナリズムだ。
「本気の人と本気の人がぶつかるから、残るんです。遊び半分のコラボなら、とっくに風化してますよ」
アーカイブが語る“本物”の証
1991年当時のレザージャケットは、ショウ終了後に販売され、市場に流出。
今や世界中のコレクターが探し求める伝説のアイテムになっている。
最近では、G-DRAGONやTravis Scottといった有名アーティストが着用している姿がSNSを通じて広く世の中に知られているため、 「ヨウジヤマモト プールオムの代表的なグラフィック=杖村さえ子」いうイメージが、根付いてきている人もいるかもしれない。
保存状態の良いオリジナルは、ヴィンテージ市場で高騰し続けているが、それ以上に価値があるのは、彼らのような上質なものに囲まれ日々を過ごしているセレブリティすらも魅了するものが、このアイテムに確かに存在しているということだ。
G-DRAGONやTravis Scottが着用したことで広く世の中に知れ渡った代表作
幻の図案が、WILDSIDEで蘇る
今回のWILDSIDEでの復刻は、当時ショウで使われなかった未発表の図案をベースにしている。
ヨウジヤマモト プールオムのオーダーで描かれながらも、世に出ることのなかった幻の絵。
それを現代の技術で蘇らせるというのは、もはや単なる復刻ではない。
今回のコレクションでは、Tシャツとブルゾンの2型が展開される。
ブルゾンはプリントではなく刺繍で女性を表現した。
糸の光沢が描線の艶を写し、絵画的な深みを生んでいる。
また、Tシャツは、当時の図案からプリントに際して、ブラウンを基調に大人の静けさを纏わせるなど現代的な視点、技巧に合わせて変化を加えている。
「これはもう、復刻じゃない。現在進行形の杖村さえ子なんです」とヨウジヤマモトのアトリエは語る。
当時の「悪い女」の余韻を残しながらも、現代の空気をまとった仕上がりだ。
ブルゾンの背面にあしらわれた刺繍。※Tシャツはプリントになります
ヨウジヤマモト プールオムが描いた「時間の美学」
1991年のレザージャケットから、時を経て2025年のWILDSIDEへ。
34年の時を経て、杖村さえ子の描く女性像が再びジャケットの背中に息を吹き返す。
絵と服が溶け合うようにして生まれたコラボレーションは、単なる復刻ではなく、ヨウジヤマモト プールオムの時間の美学を体現している。
静かに挑発的で、凛とした気配を纏う女たち。
その眼差しはいま、再び私たちの時代を見つめている。
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