2026.6.26
マスターピースと「黒」が出会う、漆黒の「バンブーチェア」
「竹」という伝統素材とモダンデザインを融合させることで、世界的な家具デザイナーたちにもインスピレーションを与えてきたといわれる「バンブーチェア」。
三越製作所との協業により、工藝的思想を今に受け継ぐ二つの革新が出会い、この名作に新たな解釈を加えました。
WILDSIDEのコンセプトカラーである黒を纏った、漆黒の「バンブーチェア」は、伝統とモダンが交差する新たな表現として、現代のライフスタイルを彩ります。
ー今回のコラボレーションのきっかけとなった「バンブーチェア」について教えてください。
三越製作所:「バンブーチェア」は、1937年に三越家具設計室(現:三越製作所)に在籍していた城所 右文次(きどころ うぶんじ)がデザインしたもので、製作所が100周年を迎えるタイミングで、先人たちへの敬意を込めた復刻企画として再製作されました。現在も製作・販売が続けられています。
製作所の歴史は、1904年に設立された三越呉服店の家具工場に遡ります。当時の三越呉服店は、それまでの和装専門店から多様な商品を扱う百貨店への転換期にさしかかっていて、城所をはじめ職員たちは海外でも学ぶなど、欧米式のライフスタイルを提案するためにオリジナルの洋家具を生産する家具工場がつくられました。現在も大田区六郷に拠点を構え、歴史的建築物の家具の復原や5つ星ホテルやラグジュアリーブランドをはじめとする特注家具の製作を行っています。
そんな製作所の仕事を伊勢丹新宿店の「ISETAN HOME ESSENCE / DESIGN STUDIO」ではじめて紹介するにあたり、これまでの製作所の歴史を象徴するようなデザインアイコンとなる家具を取り上げるのが良いのではないかと考えました。そこで、和の素材である竹に伝統的な墨や漆を連想したときに日本を代表する世界的なブランドであり、黒を追い求め続けてらっしゃる<Yohji Yamamoto>さんにお声がけをしてみるべきでは?との結論に辿り着いたのです。そして、今回のコラボレーションでは、<Yohji Yamamoto>の精神を軸に、より現代的なファッション・アート・インテリア・ライフスタイルを提案する<WILDSIDE YOHJI YAMAMOTO>さんとご一緒させていただくことになりました。
WILDSIDE YOHJI YAMAMOTO:私たちは、<Yohji Yamamoto>の象徴である「黒」をコンセプトカラーとし、さまざまなブランドやアーティストとの協業を通して、ファッションだけでなく、アートやインテリア、ライフスタイル分野などジャンルを超えたアイテムを提案しています。
竹の素材そのものがもつ柔軟さや曲線美、そして編みの繊細な表情を活かした「バンブーチェア」。三越製作所さんからのご提案を受けて、この椅子の魅力を踏まえつつ、<WILDSIDE YOHJI YAMAMOTO>の世界観を表現するうえで欠かせないコンセプトカラーである「黒」を掛け合わせることで、これまでにない黒いバンブーチェアを製作しました。
ー竹を使ったイージーチェアは、フランスの建築家、シャルロット・ペリアンが日本滞在後の1941年に発表した「シェーズ・ロング」が有名ですが、城所はその数年前に同じ竹材を使ったイージーチェアに着手しています。当時、竹材は注目の素材だったのでしょうか?
三越製作所:当時のパリではジャポニズム(日本趣味)が流行していました。三越家具設計室ではフランス・パリの旧・在フランス日本大使館の室内装飾の設計の命を受けそのデザイン思想を「竹」と捉え、1900年初頭におもてなしの場の中心である談話室の家具を、その竹をモチーフにすべて木彫で整えるとともに、日本画を融合させた飾り棚や、竹をモチーフに織り込んだカーテンや壁材などを用い、空間全体で日本的な世界観を表現した『竹の間』を完成させました。
ー竹材で「バンブーチェア」の形状を実現するにあたっての技術的な工夫について教えてください。
三越製作所:「バンブーチェア」は、日本の竹の中でも最も太く成長する「孟宗竹(もうそうちく)」を使用し、自然乾燥させ油抜きした薄い竹材を重ねて圧着した竹の成形合板を用いています。そのため、通常の成形合板よりも軽く、弾力性があることが特徴です。一方で、竹の乾燥や油抜きなどは手間も技術も必要で、現在でも製造できるのは国内数カ所のみといわれています。
「バンブーチェア」は座面の枠材がコの字にカーブし、肘置きと脚を兼ねるような構造をしています。これはカンチレバー(片持ち構造)と呼ばれるもので、後ろ脚がなく、前方だけで座面を支えるため、腰掛けたときに座面がしなるような浮遊感のある座り心地が特徴です。
1920年代のヨーロッパでは、スチールパイプや成形合板によるカンチレバー椅子が続々と発表されていました。城所もそうした時世を受けてこの「バンブーチェア」を設計したと考えられますが、直接的にはフィンランドの建築家、アルヴァ・アアルトが手がけた成形合板製のカンチレバー椅子「モデル31」(1932)に感銘を受けたと記録されています。
城所は静岡県伊豆市の出身で、後年、長女のひろみさんは取材記事の中で「生家の裏には竹林があり、父にとっては親しみのある素材だった」というエピソードを残されています。時代の要請と、モダンな家具に日本らしい自然素材を取り入れようとする城所の関心が「バンブーチェア」という名作を生んだのではないでしょうか。
ー新たなカラーリングに生まれ変わった「バンブーチェア」の魅力を教えてください。
WILDSIDE YOHJI YAMAMOTO:黒という色は、空間に強い存在感と緊張感をもたらします。特に日本の伝統的な漆器や建築に見られるような、漆のように深みのある黒は、単なる色彩の変更にとどまらず、素材の表情を引き締め、輪郭や構造を際立たせる力をもっています。
そうした文脈の中で、伝統素材である竹に黒を取り入れることは今回のコラボレーションを象徴する重要なアプローチでした。竹のしなやかな曲線のディテールが黒い艶をまとい、より彫刻的で印象的な佇まいの「バンブーチェア」に仕上がったのではないでしょうか。
三越製作所:黒というカラーリングになったことで、明るい空間では艶のあるボディの存在感が際立ちますが、逆に光を抑えた場所では、椅子の存在感が空間に溶け込んでいくような表情の変化が魅力的です。 艶ありの黒にするという提案は<WILDSIDE YOHJI YAMAMOTO>さんからいただいたものでしたが、近年の家具のトレンドではマットな質感が流行していることもあり、製作所としては少し冒険するような部分もありました。ですが、出来上がったものを拝見して、良い意味での異質感が生まれたと感じています。
艶のあるボディの背面裏には、<WILDSIDE YOHJI YAMAMOTO>のロゴをレーザー加工で刻印します。加工した箇所は表面が艶消しになるので、光の加減によりロゴが見え隠れするよう仕上げております。そんな黒のグラデーションも楽しんでいただきたいですね。
<WILDSIDE YOHJI YAMAMOTO>
コラボレーションキュレーター POGGY氏コメント
今回、モデルとして登場してくださった<WILDSIDE YOHJI YAMAMOTO>コラボレーションキュレーターのPOGGY氏より、企画へのコメントをいただきました。
「近年、自分自身の関心が海外志向から日本の文化・プロダクトへと大きくシフトしています。というのも、海外では日本ブランドをはじめ、古い日本車、日本酒などが高く評価されている一方で、日本にいるはずの僕が、その価値を十分に楽しめていないことに気付いたんです。
以来、日本の家具を再考するようになりましたが、なかでも『バンブーチェア』のような竹製の家具や、竹工芸などの伝統素材・技術に関心を寄せています。たとえば、昭和に活躍した竹工芸家の横田 峰斎は、1940年代前半にシャルロット・ペリアンの招きでヨーロッパに渡り、作品制作に協力しました。彼らの関係性に見られるような、日本と海外のデザインが交差する文脈にも強い魅力を感じています。
また、日本はアートと工芸の距離が近い点も特徴的です。海外のメゾンもその価値を再評価していますが、日本のものづくりの伝統や過去のアーカイブを掘り下げることも重要だと思っています。『日本文化・工芸・デザイン』の再評価と、それを現代的にどう伝え、展開していくか。そうした挑戦への強い関心とともに、今回のようなコラボレーションに対する可能性を感じています。」
Profiles
POGGY(こぎ もとふみ)
ファッションキュレーター、<WILDSIDE YOHJI YAMAMOTO>コラボレーションキュレーター。1976年北海道札幌市生まれ。1997年、ユナイテッドアローズに入社。2006年にLiquor,Woman&Tears、2010年にUNITED ARROWS & SONSを立ち上げる。2018年に独立。現在は、ブランドのディレクション、キュレーションなどを手がけている。2023年、英「The Business of Fashion」誌がファッション業界で最も影響力のある人物を選出する「BoF500」にも選出された。
POGGY(こぎ もとふみ)
ファッションキュレーター、<WILDSIDE YOHJI YAMAMOTO>コラボレーションキュレーター。1976年北海道札幌市生まれ。1997年、ユナイテッドアローズに入社。2006年にLiquor,Woman&Tears、2010年にUNITED ARROWS & SONSを立ち上げる。2018年に独立。現在は、ブランドのディレクション、キュレーションなどを手がけている。2023年、英「The Business of Fashion」誌がファッション業界で最も影響力のある人物を選出する「BoF500」にも選出された。
Profiles
三越製作所(みつこしせいさくしょ)
三越伊勢丹プロパティ・デザインが運営する、1910年創業の木工家具工場。宮内庁や国会議事堂、最高裁判所、5つ星ホテル、ラグジュアリーブランドの特注家具製作。荻外荘をはじめとする歴史的建造物の家具復原の取組みなどを手がけ、職人技術による「100年先も誇れる建装を。」をコンセプトに、設計から施工まで一貫体制で高品質な製品を製作する。
三越製作所(みつこしせいさくしょ)
三越伊勢丹プロパティ・デザインが運営する、1910年創業の木工家具工場。宮内庁や国会議事堂、最高裁判所、5つ星ホテル、ラグジュアリーブランドの特注家具製作。荻外荘をはじめとする歴史的建造物の家具復原の取組みなどを手がけ、職人技術による「100年先も誇れる建装を。」をコンセプトに、設計から施工まで一貫体制で高品質な製品を製作する。
転載元:MITSUKOSHI ISETAN MAGAZINE <WILDSIDE YOHJI YAMAMOTO>×<三越製作所>|マスターピースと「黒」が出会う、漆黒の「バンブーチェア」(2026年5月13日)
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